一、中国文明と日本
1. インドのことを、僕はよく知らないのですが、よく知らない僕でも知っていることは、インドという国は、歴史というものは、つまらないものだ、というのが、その文明の伝統であったようです。
2. 空想こそ尊いものであって、事実というふうなものはつまらないものだということで、事実を記録することに、インド人自体は、たいへんおろそかであった。
3. むろん人間の言語というものは、常に何ほどが現実よりも膨らまなければ言語にならないという性質を、好むと好まざるとに拘わらずもっていますから、「詩経」や「書経」に書いてあることも、事実そのままであるかどうかわかりませんが、それらの書物を編集した人としては、また読む人としては、実際あった事実とそう意識されるもので、その文学は始まっている。
4. インドと中国の文明の形態はたいへん違う。インドはそういうふうに、歴史というものを軽蔑した。だから、インド人自体の記録によるインド史を再構成できない。ところが、中国はその反対です。虚構の文学の発生がたいへん遅いということでも示されるように、人間の空想力というものには元来、あまり敬意を払わなかった。
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